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いくら探してみても詳細は見つからず、桜花はあきらめて古文書を閉じた。
小さく息を吐いて頬づえをつく。
部屋の外は相変わらず人々が動き回る気配がしている。
そういえば、みゆは今頃どうしているだろう。
みゆ、とは桜花が保護した小鳥につけた名前である。出仕している間は祖父が世話をしてくれている。
桜花は文献を脇に寄せ、じっと自分の両手を見つめた。
――治せないのか?
夜の間は自分の身に起こった出来事で頭がいっぱいで忘れていたのだが、明け方、ふっと伊織の言葉を思い出し、桜花は寝床から起き上がった。
鳥籠にかぶせた布を静かに外すと、みゆはもう起きていて、くりっとした丸い瞳を桜花に向けてくる。
桜花は鳥籠の扉を開け、中に手のひらを差し入れた。
「もしかしたら、あなたの怪我を治せるかもしれないわ。
みゆ、籠から出てきて」
気持ちが伝わったかように、みゆはひょいと桜花の手のひらに飛び移った。右側の羽の付け根には、血がにじんだままになっている。
桜花はみゆを乗せた手を籠から出し、もう一方の手をそっとかぶせて小さな体を包みこんだ。
眼を閉じて意識を手のひらに集中し、傷が癒えるようにと強く念じる。
少しずつ手が暖かくなり、自分の身体の中から、「気」が流れこんでいくのを感じる。
やがて桜花はゆっくりとまぶたを開け、おおった片手を外して、手の中の白い小鳥を見た。
みゆの傷は、きれいに治っていた。
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