第一章 花嫁

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第一章 花嫁

 穏やかな春の昼下がり。伊織(いおり)は彼の(あるじ)を探して城の庭を歩き回っていた。 「殿! どちらにおいでです!?」  呼びかけても返事はない。ただ小鳥のさえずりが聞こえるばかりだ。  草薙(くさなぎ)の地を治める九条家。そこに仕える桐生(きりゅう)伊織は十八歳。髪を上で束ね、武人らしく腰には刀を差している。  と、木立の中に何か動く姿があって、伊織はそちらへ視線を向けた。  白い上着に紅袴、うなじですっきりとひとつにまとめた長い髪。木洩れ日の中、巫女の衣装をまとった華奢な少女がひとり、熱心に舞っている。  それは彼の探し人ではなかったが、真剣な顔つきでひらりと身をひるがえす姿が愛らしく、思わず唇がほころぶ。  やがて人の気配に気づいたのか、少女は動きを止め、伊織の方を振り向いた。 「こんなところでどうしたの?」  親しみをこめて笑いかけてくる少女に伊織も鷹揚な笑顔で応じる。伊織とは幼なじみの少女はつい先日、彼と同じ(かぞ)えで十八になったばかりだ。 「桜花(おうか)こそ、このような人目のないところで舞いの稽古か?」  胸に手を当てて大きな瞳の少女はうなずいた。
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