第四章 闇の声

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第四章 闇の声

 翌日は寝不足気味のまま、桜花は九条の館に出仕した。  祖父は顔色の冴えない孫娘を心配したが、このくらいの私事で休むわけにはいかない。  館で和臣や伊織に会ったら、どんな顔をすればいいのか。大いに悩んだが、とにかくいつものように巫女の礼装で出かけていく。  その朝は館に着いても和臣にも伊織にも出会わなかった。桜花は内心ほっとしながら自室に入る。  館では人々がそれぞれの役目についていた。掃除をする者、衣装を干す者、調理場で働く者、暇なので囲碁やら将棋やらを持ち出す年かさの重臣たち。  あちこちでがたがたと動く音が聞こえ、普段と変わらぬ一日が始まろうとしている。  何か鬼封じの岩の手がかりがないかと、桜花は祖父から借りてきた古い文献を文机の上に広げた。  色褪せた紙に綴られた文字はかすれて読みづらかったが、ほどなく気になる箇所を見つけた。  かつてこの地にあった九条家の城が出火して全焼し、多くの犠牲者が出たというのだ。  (いくさ)でもないのに、城が炎上した?  奇妙な感じがした。  火の不始末などがあったのかもしれない。だが、そんな理由だけで広い城のすべてが焼け落ちるものだろうか。  しかし記録はそれだけだった。  なぜ? どのように?  本当に知りたい経緯は、覆い隠されているかのように記されていない。
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