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「娘さんや、その探しモノを聞いても?」
翁は女の殺気を物ともせずに、背筋を伸ばして切株から立ち上がる。
「貴様だ、魔物」
口調が変わった女。いつの間に手にしたか、右手に小型で細身のナイフを胸の前に構えていた。
狙いは翁。
「残念だが娘さんや。アンタではわしを退治出来んよ」
やれやれと、呆れた様子の翁。
魔物と言われ否定するどころか、肯定する発言。
「黙れ、人殺しが。最近この街道を荒らしていたのは貴様だろう?」
淡々と、女は翁に問う。
この街道は十日程前から深夜から早朝にかけ、商人や旅人が襲われ被害を受ける現場であった。
しかも、その遺体は人の仕業でも獣の仕業でもない損傷の仕方をしていた。
「ほっほ!二つ足は旨いでなあ。久方ぶりの食事じゃて、少々欲張り過ぎたかのぅ?」
翁は楽しそうに笑う。
その瞳は知性と残忍性と狂気を秘めた、赤紫。
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