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一言を零した海月の唇は
真一文字に結ばれて、開かれる事は無い
その一言が全て
それ以上語ることは無いだろうと思った俺は切り替えた。
「相変わらず海月の言葉はクイズの様だな
的を射ているようで、はぐらかされた気がする」
上目遣いで俺を見る海月に、ふて腐れ気味の俺の顔を見せてやった
視線を左右に彷徨わせ
居心地悪そうにしているのに、その唇は相変わらず閉ざされている
「そして、負けず嫌いの頑固な処も変わらない」
出来るだけ穏やかに
静に笑って見せた
そんな俺を見て彼女の顔は一瞬にして安堵する
「ねっ、真、これ開けていい」
返事を待つことも無く、テーブルに置いた紙袋を手にして中を覗く
予想外のお土産に一瞬にして戸惑いが浮かぶ彼女の顔
「真………、これだけ?」
彼女は伺う様に遠慮がちに聞いてくる
「お土産少なかった?
一番欲しいものリクエスト通りに買ってきたつもりだけど」
俺は態とらしく的外れな回答をする
「違うわよ
私が欲しいと言った物だけどこれじゃ足りないわよ。お店で使えないじゃ無い……」
海月は紙袋から一つの包みを取り出し
パッケージの英字を確認しながらも落胆する
さっきまで、叱られた子供の様に俺の追求に怯えていた彼女の瞳は、既に自分の未来に向けられている
「違うよ。さっき伝えただろ
希望通りの数を手配したよ
君がブレンドを色々試したいだろうと思ってね。
同じ産地の方が良いだろう。
会社で手配した物も明日辺り家に少し届くよ」
その言葉に、安堵の後に向日葵の様な笑顔が咲いた
「ありがとう、真」
その笑顔にぴったりな、窓から差し込む夏の陽差しが彼女の明るい未来を照らしている様に見えた
子供の様に、自分が頼んだ珈琲豆の袋に目を輝かせる海月を見て、俺は安堵した。
大丈夫……
“彼女は今も前を見ている”
「収穫時期は10月だからね。11月中旬に届くよ」
君の門出に相応しい
最高の珈琲豆を手配したよ
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