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「このカップは、早樹ちゃんが《お祖父ちゃんに珈琲をこのカップで出して欲しい》て、持ってきたんですよ」
そして海月さんは私に話してくれた
信楽焼の店を巡った時に涼子が気に入った湯飲み茶碗が在った事を
涼子は色合いがとても気に入っていたが自分が探す珈琲カップにそのデザインが無かったので諦めて帰ったのだという事
そして、その帰りにこの店に寄って
“お祖父ちゃんと二人で、この店にデートに来よう”
そう早樹に話したこと
そして……早樹が涼子の話を聞いて
二人の新たなスタートの記念にと、信楽焼の店に頼んで湯飲みと同じデザインで、珈琲カップを別注してくれたのだということを……
二人の再スタートの日
私の退職の日
3月31日に、贈ってくれるつもりだった早樹のプレゼントがこのカップだと教えてくれた
私は、改めて珈琲カップを持ち上げる
恐らくは私用の黒と青のカップ
そして、左手でテーブルの上のもう一つのカップを掌で包み込む
涼子のカップ
愛しさと寂しさが湧き上がる
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