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そんな私を見つめながら、彼女からこぼれ落ちる言葉は、私の心をふんわりと包んでくれる
「優しいお孫さんですね………
お祖父様のこと、本当に心配してましたよ」
そして、彼女は教えてくれた
届いた珈琲カップを、私に届ける事も出来ず
捨てる事も出来ず
箱を開ける事も出来ずにいた、早樹のことを
そして、私が涼子との結婚記念日にここに来ると知った早樹が、海月さんにカップを託した
《お祖母ちゃんの珈琲を飲ませてあげて》
海月さんは、見れば明らかな私のカップではなく涼子のためのカップで、涼子が毎朝淹れてくれた涼子の珈琲を出してくれていた
まるで、涼子が私に寄り添うかのように
私は………この薫りに包まれたくて
ここに来ていたのかも知れない
涼子の香りに気づかずに
この薫りに包まれていた
そして、海月さんの気配に安心を貰っていたのかも知れない
一人では無いのだと
赤の他人だけど、必ず人の居る空間の安らぎ
人の気配は
後悔と懺悔の海を漂う時間の、唯一の灯火だったのかも知れない
「ありがとう」
私は、全ての想いをその言葉に詰め込んだ
早樹の想い……早樹への想い
そして、海月さんの静かな心遣いに
………今は居ない
涼子の想いに………
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