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筋肉隆々の防具を身につけた男は、豪快に倒れた俺の脇に手を差し込んで持ち上げ、立たせてから走り去っていった。
……マジかよ、成人男性を軽々持ち上げたよ。つうか肘ぶつけたんだけど。石畳って最悪だな、めっちゃ痛い。
Tシャツにパーカーという軽装だったせいもある。ジーパンに守られた膝はじんじんしているけどそこまで痛くない。
パーカーを脱いで肘を確認すると、擦り傷から血が滲んでいる。パーカーの肘部分は生地が駄目になっている。
最悪だとため息を吐き、男が出て来た建物を見ればどうやら宿屋らしい。軒先にぶら下がっている看板の絵が、ベッドっぽかったから。
ふらりとその店に入ると、左手にカウンターがあり、右手に階段があった。正面奥には食堂のような飲屋のような場所が見える。
「いらっしゃい、食事かい? それとも泊まり?」
食堂らしき方から出て来た女性にそう聞かれ、俺は答えに窮した。
きっと、たぶん、十中八九。俺の持っているお金は使えない。
これが夢や幻覚ならいいのだが、肘は傷が出来ているし膝は痛いままだ。
ならば自ずと答えは決まっている。
「ここで働かせてください」
まずは職について衣食住確保だ。
俺がこの街に迷い込んでから、すでに一年が過ぎている。たぶん。
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