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ソファーで向かい合い、お茶を飲み彼の言葉に耳を傾けた。
「不自由はないか」
「何か欲しいものはないか」
「行きたい場所があれば教えてくれ」
彼の言葉は僕の耳を抜け、そのままどこかへ消えていく。
前はちゃんと聞こえたのだが、もう彼の言葉もわからない。
僕はお茶を飲み、窓の外を眺めた。
「……戻るか?」
僕に届いた言葉に、顔をサミュエルに向けた。彼は困ったように眉を下げ、頬を指でかいていた。
「いや、すまない。お前がいないのが寂しくてな」
立ち上がったサミュエルに、僕も立ち上がる。
「じゃあ、また来る」
部屋を出て行く彼について、僕も外へ出る。世話役の女性がひとりついて来ていたが、彼の背中を追っていく。
サミュエルは立ち止り、僕を見下ろしてどうしたのか聞いてきた。
「戻ります」
ここにいるよりは、サミュエルの仕事を手伝っている方がまだいい。
だってここだと、僕はひとりだ。
「いいのか?」
「はい」
驚いた顔をするサミュエルに返事をし、僕は城を出て彼の仕事部屋に戻った。
「本当にいいのか? あっちの生活は楽だったろ?」
ソファーで僕の隣に座ったサミュエルの問いに、僕は小首を傾げた。
楽なのだろうか。
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