1:天使のはしご

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 しばらくすると整った顔に落胆の色を乗せ、彼は治癒魔法をかけて帰っていく。  その後三日は、足と手の鈍痛が消えるのでよく眠れた。  そんな生活を続けているが、僕は病気にもかからず生きている。元の世界では年に数回くらいは、風邪をひいたりしていたのに。  僕は数か月ぶりにやって来た、サミュエルの疲労を滲ませた顔を見上げている。 「ずいぶん痩せているな。食事は毎日出されているだろう? ちゃんと食べているのか?」 「神子と殿下が婚約した。これで一安心だが、君にはどうでもいいことだな」 「とても我儘な女性でね。我々は振り回されているよ」 「話せない君にしか愚痴を言えないなんてな。ああ、こんなに……どうして君は靴を履かないんだ。服だってちゃんと支給されているだろうに」  サミュエルは僕の足を悲しそうに見て、手を取り治癒魔法をかけた。  この数か月で手荒れはひどくなっていて、僕のベッドにあるシーツは血だらけになっている。  だけどこれで、今夜はぐっすり眠れるだろう。  その日、僕は慌ただしく出て行く兵士に蹴られ、壁に頭をぶつけて気を失っていた。  意識を取り戻すと身体は冷え切っており、鈍く痛む頭を触った手には血がついていた。  建物の中は静かで、外からの怒号や金属のぶつかる音もしていなかった。     
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