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少年へ近づき、その身体を抱き上げ塔を出る。
殿下の言いつけもあるので、城の地下牢へ少年を入れた。殴られた顔に治癒魔術をかけ、どこの子だろうかとぼさぼさの髪をかきあげた。
思いのほか整った顔立ちをした少年だったが、記憶にない。栗毛色の髪は珍しいものでもないし、起きれば自分で名乗り誰かが迎えに来るだろうと牢を後にした。
第二騎士団をまとめる俺の執務室に、城の使いが来たのはそれから十日以上経ってからだった。
地下牢の少年はいつまで入れて置くのかというもので、驚いて向かえば少年はぐったりと横になっていた。
元々細かった身体はさらに細くなり、すえた匂いが鼻につく。
俺が来たことに気がついたのか、身体を起こす少年は右腕を庇っていて、慌ててその腕を見れば折れている。
治癒魔術をかけ、牢屋番に確認を取れば誰も中には入っていないと首を振っていた。
では、殿下が殴り飛ばしたときにはこの状態だったのだろうか。
もっとしっかり確認をすればよかったと悔やみながら、少年に名前を聞くもまるで聞こえていないかのような反応を返された。
「名前は?」
音は聞こえているようだが、口元はぴくりとも動かない。
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