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1:天使のはしご
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もういいかな、と思った。
ずっとずっと努力してきたけど、欲しかったものは何ひとつ手に入らない。
だからもういいだろうと、僕は財布を手に家を出た。
駅へ行く途中のコンビニで、必要なものを買って電車に乗る。
平日の昼間の下り電車には乗客が少なく、僕はレジ袋を手に流れていく景色を見ていた。
静かで、差し込む陽射しは暖かく、僕は息苦しさを感じてしまう。
目的の駅で降りたのは僕だけで、そこから歩いて雑木林を抜けていく。額から流れ落ちる汗が不思議で、立ち止って周囲を見回した。
薄暗くひんやりした空気は湿度をまとい、濃密な土と草の匂いが鼻につく。
ガサリとレジ袋を鳴らし、僕は荷造り用の紐を取り出した。落ちていた石に巻き付けて、太い枝を選んで放り投げる。
準備が終わり、僕は安堵の吐息を漏らした。
これで終わり。全部終わり。もう求めることはない。
意識が落ちる寸前、何かが僕に絡みついた。
それは僕を求めていて、僕のことを欲している。
僕はそれが不思議で仕方なかった。僕なんかを必要とするそれが理解できなかった。
だって、誰も僕を見ていなかった。誰も僕を求めていなかった。誰も僕を欲していなかった。
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