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一緒の仕事をして数週間。
西谷はとにかく人が良かった。
前の課から毎日電話がかかってくる。
「あっそうですね、そのファイルは入って右の…はいそうですそこの入り口の右の棚にあると思います。」
「○△先生からの原稿ですが…あっわかりました…では自分がざっと校正しますよ。メールで送ってください。」
西谷はもう自分の課の人間である。
毎日のように些細な内容を聞いてくる前の課の人間はどうなのか。
そして、全てに懇切丁寧に答えている西谷はどうなのか。
理沙子は日を追うごとに、西谷に対して不満が溜まってきていた。
だが、毎日溜まる不満は、毎日の西谷の人の良い対応で相殺されていった。
午前中に前の課から西谷宛に電話が来る。
理沙子が電話を取る場合もあるが、何度
「西谷さんは忙しいのですが、それはそちらの課では解決できない内容ですか?」
と言ってやろうと思ったか知れない。
しかし西谷の丁寧な対応や、今の課の人間にはない窓口対応の優しさ、
それらを間近で見ると注意をする気が起きなくなった。
元々、今の課に異動で入った理沙子にとっては
周りの人間の窓口対応の上から目線さに疑問を持っていた。
一度莉子にそれとなく聞いてみたことがあるが、
「理沙子さんは優しいですね。でも、相手に媚びを売るのと優しさは違いますよ。どうせ問題があるから窓口に来てるんですから舐められますよ。」
媚びを売ってるわけではなかったが、莉子にそう言われて理沙子は自分の考えを表に出すのをやめた。
自分だけでも、窓口対応は笑顔でいようと密かに考えていた。
そんな理沙子にとって、分け隔て無く窓口で笑顔の西谷は嬉しい存在であった。
午前中の西谷宛の電話の不満も、午後の窓口対応を見て収束する。
そんな毎日を送っていた。
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