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「し、社長、ちょっと待って下さいよ!
だって彼女は…」
大神は松嶋の方を見る。
彼女は他人事のように、そ知らぬ顔で空を見つめている。
大神は、副社長、人事部長と視線を移し、それから最後に三鷹社長をまじまじと見つめた。
副社長と人事部長は、気まずそうに目を逸らす。
「ちょっと失礼」
大神はススッと社長の方へ近づくと、耳に顔を寄せて小声で問いかけた。
(社長、一体どういう事ですか)
三鷹社長はバツが悪そうに頭を掻くと、ついと隣の松嶋に目線をやった。
「いやね、彼女
……できちゃったみたいで」
「は?」
あんぐりと口を開けた大神に、三鷹社長はノンビリと続けた。
「いやぁ。我が家の事情で認知とかは無理だからね。
しかし彼女は産みたいというし、それは是非とも叶えてやりたい。
…でも、生まれてくる子供には、父親が必要だろう?」
「それはそうですが…
だからって何故」
俺なんですか?!
喉まで出かかった言葉をかろうじて堪えた大神は、社長と顔がくっつきそうなほど至近に迫ると、さらに声を小さくした。
(社長、だから避妊具はご自分でご準備をって…)
(いやさ。彼女が “今日は大丈夫” って言うからつい…)
(も~~、何やってんです!女の “大丈夫” は “極めて危険” の同義語ですって)
「ハハハ、まあ……そこをなんとか。
頼むよ大神君」
「いや、そんなの絶対に無理っ…」
いつの間にか声は大きく、切実さを帯びる大神だっきが_____
「とにかく!」
三鷹社長の重低音の大声が、無情にもその反論を切り捨てた。
「返事はゆっくり考えてくれていいから」
期待しているよ____
理不尽な言葉だけを残し、社長室の扉は閉じられた。
副社長と人事部長の気の毒そうな顔が、ひどく印象的だった。
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