2 突然の災厄

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「し、社長、ちょっと待って下さいよ! だって彼女は…」  大神は松嶋の方を見る。  彼女は他人事のように、そ知らぬ顔で空を見つめている。  大神は、副社長、人事部長と視線を移し、それから最後に三鷹社長をまじまじと見つめた。  副社長と人事部長は、気まずそうに目を逸らす。 「ちょっと失礼」  大神はススッと社長の方へ近づくと、耳に顔を寄せて小声で問いかけた。  (社長、一体どういう事ですか)  三鷹社長はバツが悪そうに頭を掻くと、ついと隣の松嶋に目線をやった。 「いやね、彼女 ……できちゃったみたいで」 「は?」  あんぐりと口を開けた大神に、三鷹社長はノンビリと続けた。 「いやぁ。我が家の事情で認知とかは無理だからね。 しかし彼女は産みたいというし、それは是非とも叶えてやりたい。 …でも、生まれてくる子供には、父親が必要だろう?」 「それはそうですが… だからって何故」  俺なんですか?!  喉まで出かかった言葉をかろうじて堪えた大神は、社長と顔がくっつきそうなほど至近に迫ると、さらに声を小さくした。  (社長、だから避妊具はご自分でご準備をって…)  (いやさ。彼女が “今日は大丈夫” って言うからつい…) (も~~、何やってんです!女の “大丈夫” は “極めて危険” の同義語ですって) 「ハハハ、まあ……そこをなんとか。 頼むよ大神君」 「いや、そんなの絶対に無理っ…」    いつの間にか声は大きく、切実さを帯びる大神だっきが_____ 「とにかく!」  三鷹社長の重低音の大声が、無情にもその反論を切り捨てた。 「返事はゆっくり考えてくれていいから」  期待しているよ____  理不尽な言葉だけを残し、社長室の扉は閉じられた。  副社長と人事部長の気の毒そうな顔が、ひどく印象的だった。  
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