895人が本棚に入れています
本棚に追加
すると、彼女がようやく雑誌から顔を上げた。
大神はホッと息をつく。
「な?聡明な君ならきっと解ってくれると思っていたよ、さあ、今からでも三鷹社長に…」
「……っさい」
「エ?」
次の瞬間、彼女は大神の耳をあり得ないほどギュウッと引っ張った。
「いっっ…?!」
艶然と微笑を浮かべながら、氷のような声でいい放つ。
「『ウルサイ』って言ったの。
いい?あのヒトが生んでいいって言ってくれてるのよ。
そこを上手くやるのは、貴方の役目でしょう?
キレ者の大神くん。
だから口の回る男はキライなのよ」
思い切り振りを付けて耳を放すと、彼女はフウッと息を吐いた。
「大体ね。
私、子供には最初っから事情を話すつもりだし。 まあ、貴方の面子を立てて、世間体だけは『いい妻』を演じてあげる」
松嶋は、大神に向かって優雅に微笑んでみせた。
「それからね。言っとくけど私、北九州に一緒に行くつもりなんてないから。
アンタもその方が得でしょ?
今までの遊びたい放題、やりたい放題の生活スタイルを続けられるんだから」
「そんな、俺は…」
言いかけた大神を遮って、彼女はビシッと指を突きつけた。
「あと_____
たとえ偽装結婚するにしても、これだけは変わらないわ。私に手ェ出したら………
ぶっコロすからね」
「ひ…」
「じゃあね、お休みなさ~い。
さあ、赤ちゃん。大きくなるのよ~♪」
ダブルベッドのど真ん中、いっぱいのスペースを使って、松嶋はスヤスヤと寝息を立て始めた。
それを見て、大神はガックリとシャワールームに向かう。
ダメだ…
愛する男の子供を生もうとする女の
本能に、何を言っても勝てそうにない。
それにやっぱり。
俺はこの女が、大の苦手だ。
最初のコメントを投稿しよう!