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詰んだ。
あれから。
大神は、幾度か副社長に掛け合おうとしたが、糠に釘でのらりくらりとかわされた。
人事部長に至っては、彼の顔を見るなり逃げ出す始末、全く取りあって貰えそうにない。
大神は、デスクで頭を抱えていた。
目の前のスクリーンが切り替わり、真っ暗になったコトにも気がつかない。
その、黒い画面に吸い込まれるように彼は物思いに沈んだ。
__つまるところ。
俺は庶民の家で産まれ育った、生粋の庶民なのだ。
消防士の父親は豪快で、威勢よく笑っている。
心配性の母親は取り越し苦労ばかりして、ウザイ姉貴にいたっては俺の悪事をチクっては、俺が親父に殴られるのを見て笑っている…
どこにでもあるような普通の家庭。
昔はそれが嫌だった。
特別な何かが欲しくって、進学で上京してからは、少しでも上へと、負けるかと思ってやってきたが…
そんな俺が心に思い描くのはやっぱり、平凡であったかい『家庭』
郊外の一戸建てかマンションに住み、子供は男と女が1人ずつ、休日は家族揃ってドライブへ。
助手席で笑っている妻は、ちょっとアホで、でも可愛い…
「……ちょう?大神課長?」
あかの とう…こ?
なーんだ、良かった。やっぱりお前だったのか。
さ、とうこ。こっちへおいで?
いや今な、すごく嫌な夢をみていてさ…
「オオカミさん!」
耳をつんざく甲高い声に、大神ははっと我に返った。
「え…ああ、何?」
「何?じゃないですよ。お呼びでしたよね?」
燈子は、課長席の横に立ち、怪訝そうに首を傾げた。
しまった、ここはオフィス。
ってことは、さっきのは夢…
まさか俺、アイツの名前口走った?
「あ…えーっと、そうそう、これを。コピー10部な」
大神は机に散らばった書類を適当に見繕い、燈子に渡した。
「??」
(聞き間違いだったかな…)
首を傾げながら、燈子はコピー機へと向っていった。
その後ろ姿を目で追いながら、大神は両肘をついて頭を抱えた。
バカバカ、一体何やってんだ!?
あ~ダメだ俺、やっぱ相当病んでるわ。
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