3 究極の2択

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 詰んだ。  あれから。  大神は、幾度か副社長に掛け合おうとしたが、糠に釘でのらりくらりとかわされた。  人事部長に至っては、彼の顔を見るなり逃げ出す始末、全く取りあって貰えそうにない。  大神は、デスクで頭を抱えていた。  目の前のスクリーンが切り替わり、真っ暗になったコトにも気がつかない。  その、黒い画面に吸い込まれるように彼は物思いに沈んだ。 __つまるところ。  俺は庶民の家で産まれ育った、生粋の庶民なのだ。  消防士の父親は豪快で、威勢よく笑っている。  心配性の母親は取り越し苦労ばかりして、ウザイ姉貴にいたっては俺の悪事をチクっては、俺が親父に殴られるのを見て笑っている…  どこにでもあるような普通の家庭。  昔はそれが嫌だった。  特別な何かが欲しくって、進学で上京してからは、少しでも上へと、負けるかと思ってやってきたが…  そんな俺が心に思い描くのはやっぱり、平凡であったかい『家庭』  郊外の一戸建てかマンションに住み、子供は男と女が1人ずつ、休日は家族揃ってドライブへ。  助手席で笑っている妻は、ちょっとアホで、でも可愛い… 「……ちょう?大神課長?」  あかの とう…こ?  なーんだ、良かった。やっぱりお前だったのか。  さ、とうこ。こっちへおいで?  いや今な、すごく嫌な夢をみていてさ…   「オオカミさん!」  耳をつんざく甲高い声に、大神ははっと我に返った。   「え…ああ、何?」 「何?じゃないですよ。お呼びでしたよね?」  燈子は、課長席の横に立ち、怪訝そうに首を傾げた。  しまった、ここはオフィス。  ってことは、さっきのは夢…  まさか俺、アイツの名前口走った? 「あ…えーっと、そうそう、これを。コピー10部な」  大神は机に散らばった書類を適当に見繕い、燈子に渡した。 「??」  (聞き間違いだったかな…)  首を傾げながら、燈子はコピー機へと向っていった。  その後ろ姿を目で追いながら、大神は両肘をついて頭を抱えた。  バカバカ、一体何やってんだ!?  あ~ダメだ俺、やっぱ相当病んでるわ。
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