1 小さな幸せ

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1 小さな幸せ

 イヤだ…  そんなの イヤだ…  俺にはもう、心に決めた女(ひと)が… 「う、う、うわああぁ…!!」  自分の絶叫に驚き、彼はガバッと起き上がった。 と同時に、ベッドサイドの目覚まし時計が鳴り響く。  午前5時。  大神秋人の朝は早い。  30歳になったのを機に始めたランニングのため、彼は近頃、いつもこの時間に起床することにしていた。  ハア…ハア…  彼は、自分が肩で息をして、汗だくになっていることに気が付いた。  悪い夢を見ていたようだ。  近頃の夢はいつも変だが、今日はまたいちだんと酷かった気がする。  えーっと、確か………………  思い出せない。  まあいい、どうせまたいつものエロ妄想だ(※『2 オオカミさんの恋煩い』)。     社内きっての期待のホープ、出世街道まっしぐら、かつ自他も認めるプレイボーイ。 こと女性には絶対の自信を持つ彼だったが…  不本意にも、課内一の役立たず、部下の赤野燈子に、2年以上も “恋” をしてしまっていた。  しかも情けないことに、手出しはおろか想いすら告げられないでいる。  でも…  にしては…  チラッと下に視線をうつし、自分の状態を確認した彼は、おや?と首をかしげた。    って、  うぉいっ、何やってんだ俺はぁっ!!    いかん、近頃彼女に関わる行動全てが、すっかり3枚目になっている。  彼はプルプルっと頭を振ると、ベッドを飛び降りて洗面台へとむかった。
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