1 小さな幸せ

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 例え早朝ランニングであれ、見栄っ張りの彼は身だしなみに手を抜かない。  顔を洗い、髭を剃って眉も整え、寝癖の強いボサボサヘアをきっちり固めてからでないと、人前には決して出ないのだ。  トレーニング・ウェアを着こみ、玄関口にある全身鏡で頭の頂点から爪先までチェックして、彼はやっと玄関ドアを出た。  エントランスを出ると、外はまだほの暗い。  凍るような晩秋の早朝、冷えた空気にぶるっと身を震わせた。  寒い、眠たい。面倒臭いしサボリたい…  否、よい仕事の基本は、フットワークの軽さにある。  パパンと頬を打って己を鼓舞すると、彼は一歩を踏み出した。  いつものコースは折り返し地点の運動公園まで約3km、ハードロックを聞きながら、軽く流して約13分。  5分と経たないうちに身体は寒さに馴れ、公園に着いた頃にはもう、すっかり暖まっている。
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