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「あれぇ、大神さん?大神課長じゃないですか!
オオカミ課っ長ぉ~~」
聞き覚えのある間延びした声に、この間の悪さは…
振り返ると、はるか向こうのベンチから、ぶんぶんと手を振る女がいる。
「赤野……燈子」
大神はクルリと方向を転換した。
怪訝な様子でこちらを見ている美女に背を向けると、声のする方へと駆けていく。
名残にちらりと後ろを見ると、肩をいからせながら嫌がるプードルを引っ張っている、彼女の背中が見えた。
「奇遇でふねぇ」
両手に大事にコッペパンを包み、いかにも幸せそうにパクついているチビ女は、赤野燈子。
大神の不肖の部下で……不毛な片想いの相手でもある。
「ま、まあな。
どうした。何やってんだこんなところで」
アムッ。
パンを包むその両手が、頬張る口元が…なんかエロい。
またしても妄想に浸っていた大神は、かろうじて平静を保った。
「ヤダなあ、見たら分かるでしょ?
『食欲の秋』ですよ。
ちょっと太っちゃってね~、ダイエットにジョギングを始めたってわけでして。
あ~、さては課長も?
メタボの気になるお年頃ってやつでしょ?」
「バカいうな!
言っとくが、俺の体脂肪率は9%だ」
然り気無く自己PRしたつもりの大神だが、燈子はまったく気付かず美味しそうに、今度はイチゴミルクを飲んでいる。
彼は少しプライドを傷つけられながらも、めげずに横に腰掛けた。
「しかし…
俺は5月からやってるが、お前には初めて会うな」
「そりゃそうですよ。だって、今朝初めて早く起きられたんですから」
「……相変わらず残念な奴だ」
「え?。何か仰いました?」
「イヤ、別に」
と、大神は唐突に燈子の右手から、1/3程が欠けているパンを奪い取った。
「ああっ!私の朝ゴハン…」
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