1 小さな幸せ

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「あれぇ、大神さん?大神課長じゃないですか!  オオカミ課っ長ぉ~~」  聞き覚えのある間延びした声に、この間の悪さは…  振り返ると、はるか向こうのベンチから、ぶんぶんと手を振る女がいる。 「赤野……燈子」  大神はクルリと方向を転換した。  怪訝な様子でこちらを見ている美女に背を向けると、声のする方へと駆けていく。  名残にちらりと後ろを見ると、肩をいからせながら嫌がるプードルを引っ張っている、彼女の背中が見えた。 「奇遇でふねぇ」  両手に大事にコッペパンを包み、いかにも幸せそうにパクついているチビ女は、赤野燈子。  大神の不肖の部下で……不毛な片想いの相手でもある。 「ま、まあな。  どうした。何やってんだこんなところで」  アムッ。  パンを包むその両手が、頬張る口元が…なんかエロい。  またしても妄想に浸っていた大神は、かろうじて平静を保った。 「ヤダなあ、見たら分かるでしょ? 『食欲の秋』ですよ。  ちょっと太っちゃってね~、ダイエットにジョギングを始めたってわけでして。  あ~、さては課長も?  メタボの気になるお年頃ってやつでしょ?」 「バカいうな!  言っとくが、俺の体脂肪率は9%だ」  然り気無く自己PRしたつもりの大神だが、燈子はまったく気付かず美味しそうに、今度はイチゴミルクを飲んでいる。  彼は少しプライドを傷つけられながらも、めげずに横に腰掛けた。 「しかし…  俺は5月からやってるが、お前には初めて会うな」 「そりゃそうですよ。だって、今朝初めて早く起きられたんですから」 「……相変わらず残念な奴だ」 「え?。何か仰いました?」 「イヤ、別に」  と、大神は唐突に燈子の右手から、1/3程が欠けているパンを奪い取った。 「ああっ!私の朝ゴハン…」
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