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《間もなく終点。桜橋。左側のドアが開きます…》
地下鉄車内に流れるアナウンスを小耳に挟みつつ、開いたドアへと足を進めるアヤカの顔には微笑が浮かんでいた。
アヤカに微笑みをもたらす物。
それは次の指名客が二週間振りの再会となる“彼”だからで、時に苦行となる“お仕事”へと向かう道程も今は楽しいと思えてならない。
サラサラの黒髪ロングヘア。童顔寄りの顔立ちで、しかも小柄とくれば、萌え系女子にカテゴライズされるのだろうし、実際、自分の指名客の大半がロリィな野郎ばかりだが、今から会う彼は多分…いや。絶対に違う。
彼と初めて会った時、自分を目にした時の彼の動揺がそれを最も表していると思うし。当然コスプレだ何だのの倒錯変態オプションをチョイスする事もない。
それに、ドS気取りな困ったヤカラでもなければ、ドMな願望塗れた大きなオトモダチでもない。
「むしろ彼は…って何妄想してんだろう、私…」
ふと脳裏に浮かんだ彼の姿に、頬を朱く染めるアヤカだが、彼と会う事にこれ程までに心が躍るのは、彼が自分を風俗嬢としてではなく、一人の女性として扱ってくれるからで、それがアヤカにはたまらなく嬉しかった。
だから、今日の自分はいつもの萌えを前面に押し出したイメージじゃなく、恐らく彼が好むであろうオトナな女性に仕上げた自信はある…と思っている。
そうする事で、もう間もなく始まる事となる。一夜の逢瀬が、彼にとって素晴らしい物になるかも知れないし、アヤカ自身もその時間を目一杯に楽しめたらとも思っている。
そんな仕事とプライベートがごちゃ混ぜになったような気分を、気恥ずかしく思いつつアヤカは、ホームへと到着した地下鉄を降り、彼が待っててくれてるだろうホテルへと足を進めた。
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