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「解ってくれてありがとう。
私の仕事もね、ある意味超短期のハケンみたいな物だから、彼みたいな被害者アピールにはウンザリする事多くて…
もういいオトナなんだし、仕事はお客さまのお財布事情に左右される物だって解ってる筈なのに…
それに私は無理強い出来ないもん。
お客さまのお財布事情厳しいと知って尚、沢山私を指名してくれとか…」
そう。抽象的なオブラートに包まれてはいるが、経済情勢や社会情勢がどうであろうとも、彼女の言葉は的を射た正論だろう。
それに、この情勢下。例えテレビの中の彼が、雇用延長を求めて戦ってみた所で、良くて数ヶ月クビが繋がる程度に過ぎない。
その結果、同じ職場の誰かを蹴落とす可能性があろうとも、自らを被害者と規定すれば、それさえも正当化出来るのだろうか?
愛の惑星という名が付く場所には、全く持って不似合いな問題を二人してそれぞれに考える中、ふっと我に返ったらしいアヤカが、テレビの音量を下げ微笑った。
「ゴメンなさい。何か雰囲気壊す話して」
「いや。おかげでアヤカさんオトナだなって解ったからね。単なる萌え眼鏡サンじゃないって言うか」
「萌え眼鏡サン!?私ってそんな風に思われてたんだ…」
そう軽く顔をしかめつつ、入川に寄り添ったアヤカから、ふわっとスパイシーな香りが薫った。
今回で四回目となる彼女との逢瀬だが、記憶に残る彼女の香りは、もっと甘い香りだった気がした。
しかし、今の彼女が放つ香りはどこか煽情的で、それは思わず息を呑む程に艶めかしかった。
「本当、入川さんて女心解ってる風でダメダメだけど、そこがいいのかも知れない」
「中々ビミョーな褒め言葉ありがとう。
とりあえず風呂入ろっか?」
「一緒に入ります?」
頬をほんのり紅く染め、そう訊ねたアヤカの姿がとても愛おしくて、入川は彼女の小柄な身体をお姫様抱っこして、彼女に優しく囁いた。
「…じゃあ、ほのぼのバスタイムといきましょか」
「…やだ。その顔と声でほのぼのとか言っちゃダメ。せっかくのアダルトな感じが崩壊しちゃう」
そんな、ほのぼのしい雰囲気でバスルームへと向かう二人の姿は、本当は淫靡な筈の部屋の空気を和ませ、二人共にその顔には、何の打算も思惑もない自然な笑みが浮かんでいた。
そうして二人の消えた部屋のテーブルの上で、ぽつんと置かれた携帯が震えていた。
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