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お気に入りの場所がある。放課後の掃除を終わらせて、高校を出て駅に向かうと、その途中にある、長い小道を抜ける。すると其処には、小高い丘にひっそりと建つ古書店が一つ。レトロで美しい外観から、初めて見た時はアンティークな雑貨屋さんかと思った。
カランカラン♪
扉を開けると、いつも私を出迎えくれる鐘の音が心地良い。ステンドグラスの窓からは陽が射し込んで、店内に色をつける。赤、青、黄色、緑、古書を彩るそれがとても綺麗で、余計な音の無いこの空間はとても落ち着く。レジカウンターには白髪のご主人が一人。いつも何かしらの本に目を通している。そして…
(居た。)
カタン、と靴音が立って、私はその人の隣りに並ぶ。距離は大体、拳五つ分くらい。私にはもう一つ、ここへ来るお目当がある。それは、生徒会書記の二年生、五月七日真琴(つゆり まこと)先輩。艶のあるさらさらの黒髪に。眼鏡の奥にある、透き通るような切れ長の黒目。白い肌。初めて見た時、
(何て、綺麗な人なんだろう。)
と、心が跳ねたことを、今でも覚えている。そして今、この瞬間も。隣りに先輩がいると思うだけでドキドキする。頬が火照って、俯きがちになる。
偶然、見つけた古書店で、偶然、其処にいた先輩。先輩は毎週火曜日にここへ足を伸ばしている。チラリと横目に見る、先輩のしなやかな指先が、私はとても好きだ。
(…触りたいなぁ。)
そんなことを思っていた時、視界の端に捉えた一冊の本。
(?、光ってる?まさか。気のせい。)
でも、見れば見るほど、その本は虹色に輝いて見える。まるで
「開けて、開けて!」
と、誘われているようだ。
(………。)
先輩と、拳二つ分の場所にあるそれに、私は恐る恐る手を伸ばした。
カタンッ
触れると、より一層輝きを増した気がする。
(先輩!?先輩は気づいてないの?こんなに光ってるのに?…やっぱり、私の気のせい?)
しかし
パアアアアアアアァァッ
(!?)
適当な頁を開いたその瞬間、本の、紙の上の文字が一文字ずつ宙に浮かび上がり、眩しいくらい輝きが増して、私の前髪が、セーラー服のリボンが上に靡く。
(何!?…先輩!!)
隣りへ視線をやると、さっきまで其処にいた先輩の姿が無くなっていた。
(どうしよう!?何で?怖い!どうしよう!?)
その瞬間(とき)一気に視界が、真っ白になった。
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