キャッチボールが変えた運命

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  ぐっと押し黙る飯島。 俺は更に続ける。 「大体、俺は初日にも面と向かって釘を刺した筈だ。“如何して鍵を持たないんだ、先に寝入って閉め出しの形になっても知らないぞ”と。部屋が同じだからって何もかもを共有している(許している)訳じゃない。俺とお前は【赤の他人】で、此れから先も其れは変わらない。最低限の礼節と俺のパーソナルスペース位はしっかり守ってくれ。」 そして言葉の最後、自分が持っていた寮の鍵を押し付ける様に渡した。 “パーソナルスペース”とは、心理学に於ける個々の【領域(テリトリー)】の事だ。 此の時の俺は、毎日飯島に何かを土足で踏み荒らされている様な感覚に陥っていた。 “何か”とは間違い無く【心】の事で、要するに俺は飯島から、【パーソナルスペースを犯されていた】と云う認識に成る。 普段は何食わぬ顔で見て見ぬ振りが出来る事象に対して急に苛立ったり、親しい筈の相手にも関わらずその日は付き合いが億劫だった…と云う経験は無いだろうか。 此れ等は全て、己のパーソナルスペースに舵が任されている。 精神的な疲労が蓄積すると自己防衛本能が働き、スペースの所々に【歪み】が生まれるのだ。  
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