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此の【歪み】が如何にも厄介で、もし相手の踏み込んだ領域が歪みの部分だったとしたなら
歪みは簡単に、【起爆剤】へと変貌を遂げる。
パーソナルスペースに踏み込んだ者を【敵】と見做し、此れを排除せねばと云う濁った感情が生まれるのだ。
本能であるから、幾ら己の事とは言え、中々に制御が出来ない。
俺は耐えた。
興味の無い野球話に散々付き合い、寝不足に成っても其れを相手に訴える事はしなかった。
【理性】が働いていたからだ。
だから【心】が叫んだ。
「もう止めてくれ」「限界だ」と……
飯島に鍵を押し付けた辺りで三限目の開始五分前を報せるチャイムが鳴り、俺はキレていた自分に気が付いた。
辺りが妙に、静まり返っていた事にも。
(……言い過ぎた、だろうか。)
考えても後の祭である。
俺は飯島の顔が見れなかった。
怒っているだろうか。
其れとも、傷付けただろうか。
飯島が口を開くまでの間合いは十秒足らずではなかったかと推測するが
此の時の俺には、果てしなく永く感じていた事は言うまでも無い。
「…錦戸…」
「……。」
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