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「大人になったら、一緒にこの町を出て行こうね」 二人は約束していた。 教室ではいつも廊下側の席に座っていた。 窓に近いと潮の臭いがする。あのたまらなく嫌な海の臭い。 三年の月日は、あっという間に過ぎ去り、私は高校生になった。 海の見えない山の向こうにある高校に行きたかったけど、進路指導の先生に無理だと言われた。 成績の問題ではなく、遠すぎる……と。 悲しかったけど、なつきと同じ高校に行くことにした。 あなたなら、もう少し上のレベルの学校も狙えるわよ。そんな先生の言葉など、どうでも良かった。 「ゴメン、りお」 高校三年の夏。 なつきはぐしゃぐしゃに泣いていた。 二人の約束を守れなくなった。彼女はそのために泣いていた。 親の転勤。なつきは、再び都会へと帰る。海のない都会へ。 私は、なつきを慰め、大人になったら遊びに行くねと抱きしめた。 私は、この海の町で一人きりになった。 「どうしても行くのか?」 すっかり海の臭いが染みついたパパが寂しそうに話しかける。 私に迷いはない。 高校卒業とともに、都会の会社へ就職を決めた。 大学に行く道もあったけど、生活費や学費を考えると、アルバイトだけでなんとかなりそうな金額ではなかった。海の臭いがする両親の世話になりたくはなかった。     
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