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その会社は、それほど条件が良いところではなかったけど、少なくとも海から遠ざかることだけはできる。
「何かあったら相談してね」
あの女が母親ぶって言う。
私は返事をしなかった。
都会の暮らしは、何もかもが未経験のことばかりだった。
はじめての一人暮らし。はじめての社会人生活。はじめての……孤独。
会社では失敗ばかり。よく怒られた。
同僚は慰めてくれたけど、どこか感情が希薄で虚しかった。
「なつき……」
なつきに会いたいと思った。
たった一人の親友。たった一人の理解者。
今頃、彼女はどこにいて、何をやっているだろう。
家に帰ると、一人、膝を抱えて泣いているような日が続く。
心がすり減っているのが、自分でもわかった。
「藤田さんから電話があったぞ」
一年が過ぎたある日、パパから連絡があった。
藤田さんとは、高校三年生の時の同級生。
電話がほしいと言われていたので連絡をしてみると、同窓会の連絡だった。
せっかく抜け出てきたあの海の町に行きたくはなかった。
でも……なつきも来ると。
私は参加を伝えた。
「りお!」
会うなり、なつきが抱きついてきた。
私たちは一年ぶりの再会に喜び合った。
なつきは高校生の頃よりもきれいになっていた。
訊けば彼女は都会の大学に通っているのだと言う。
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