4/7
前へ
/7ページ
次へ
その会社は、それほど条件が良いところではなかったけど、少なくとも海から遠ざかることだけはできる。 「何かあったら相談してね」 あの女が母親ぶって言う。 私は返事をしなかった。 都会の暮らしは、何もかもが未経験のことばかりだった。 はじめての一人暮らし。はじめての社会人生活。はじめての……孤独。 会社では失敗ばかり。よく怒られた。 同僚は慰めてくれたけど、どこか感情が希薄で虚しかった。 「なつき……」 なつきに会いたいと思った。 たった一人の親友。たった一人の理解者。 今頃、彼女はどこにいて、何をやっているだろう。 家に帰ると、一人、膝を抱えて泣いているような日が続く。 心がすり減っているのが、自分でもわかった。 「藤田さんから電話があったぞ」 一年が過ぎたある日、パパから連絡があった。 藤田さんとは、高校三年生の時の同級生。 電話がほしいと言われていたので連絡をしてみると、同窓会の連絡だった。 せっかく抜け出てきたあの海の町に行きたくはなかった。 でも……なつきも来ると。 私は参加を伝えた。 「りお!」 会うなり、なつきが抱きついてきた。 私たちは一年ぶりの再会に喜び合った。 なつきは高校生の頃よりもきれいになっていた。 訊けば彼女は都会の大学に通っているのだと言う。     
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加