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海は嫌い。 気持ち悪い潮の臭い。耳障りな潮騒。べたつく塩分たっぷりの風。天気が良ければギラギラ眩しくて、天気が悪ければ暗い鉛色をしている。 「りおちゃん。お肉ばかりじゃなくて、お魚も食べなきゃダメよ」 自分をママだと言い張る女が、薄気味悪い笑顔で私に話しかける。 私がプイと横を向くと、昔は優しかったパパが不機嫌そうな顔で私を睨む。 「りお、ちゃんとママの言うことを聞くんだ」 私の生まれた場所は、田園風景の広がる山奥の農村だ。 そこは私のママも生まれ育った場所。 一面に広がる麦畑。風が吹けば、金色の穂がサラサラとそよぐ。 日に焼けた真っ黒な肌のお爺ちゃんとお婆ちゃんが、コンバインに乗って麦を刈り取る。 一緒に乗せてもらったこともあった。 進むのは、ゆっくりだけど、次々と麦を刈り取っていく。 刈り取った後の麦わらは、ざあっと畑に束で置かれていく。 楽しいことばかりだった農村での生活。 ママが病気で亡くなるまでは。 その後、パパがあの女と知り合って、結婚した。 「よろしくね、りおちゃん」 なんで、知らない女と一緒に暮らさなければいけないの? パパに訊くたびにパパは困ったような悲しそうな顔をした。     
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