お母さん

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お母さん

 玄関の扉を開けるなり、夕食のいい匂いが鼻腔を刺激した。  今夜は甘辛い系の煮物かな。嗅いだだけでお腹の虫が刺激される。  仕事は一応できる方みたいだけど、家事能力がまったくなくて、独り暮らしを始めてからは外食かコンビニ弁当ばかりだった。  そんな私の生活が半年前から変わった。  …半年前、唯一の肉親である母がこの世を去った。  父は私が社会人になってすぐ亡くなって、以降、二人で暮らしていたけれど、母もついにこの世を去った。  仕事仕事で忙しいせいもあるけれど、生来不器用なのか、私は生活能力はまるでなくて、特に料理は壊滅的だった。それでも、一人で生きていくだけなら外食や出来合いでいいと思っていたけれど、料理上手だった母からすると、それはありえないことらしい。  だから、毎日ではないけれど、週に二回、同じ曜日に必ず食事ができている。  最初は一体どこの誰が忍び込んで作っているのかと、怪しすぎて手をつけられなかったけれど、まず料理の見た目が馴染んだものだったし、匂いや配膳の仕方も記憶の通りで、食べてみたら、その味わいは生まれてからずっと口にしてきたものだった。  本当は、忙しくても自分で料理を覚えて、バランスのいい食事を摂るよう心掛けるべきなんだろうけれど、家に帰ると手料理が用意されている暮らしはありがたすきで、いまだについ甘えてしまう。  こういうトコ、まったく自立できない娘でごめんね、お母さん。  でもコレに慣れちゃうと、死ぬまでずっと甘え続けちゃうから、そろそろ心を残さず天国に向かってね。 お母さん…完
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