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ハユン家の養女アマラーサは《谷》の一族の生まれだ。八年前、童子献納(センドレーサ)の伝統に従い戦士の村ザグへ遣わされて来た。いずれ《谷》の危機を救う者が出るという、一族の予言を成就させるために。
献納童子(センテンティア)を選ぶ神前試合で最後まで勝負がつかず、先例のない二人同時童子として遣わされた相棒の名はアグニス家の長子トゥード。戦士の村ザグに《谷》の血統を絶やすなという昔からの不文律により、それまで面識のなかったふたりはその時から『掟の定める婚約者』同士とみなされるようになった。
古くは《水精母の守護結界》(アトル・アン)ともよばれたこの大陸(タイス)には複数の人種と民族とが住むが、そのうちの絶対多数を占める大陸人(ティセラタン)族は、祖神である造物主ティア・スラァルを謀殺して以来、みずから「神殺し」を名乗り、超越者に頼らず生きることを誇りとしている。
その殺神事変を機に数多の神々がヒトの驕りを見捨てて去ったと言われている水母大陸で、《異》や《魔》とよばれる者たちや《谷》の一族のような他界からの移住民は、風霊や水精の加護をうけつつ昔ながらの暮らしを続けていた。
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