『 それゆえに むかしがたりを はじめよう 』(冒険譚・梗概)

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 プロローグ・ 出立 海鳥がふぃーく、ふぃーく、と鳴く。 ここはザグの村だ。 夜明けだ。 かん高い声でふぃーくふぃーく、ふぃーくろく、と鳴く。 ザグの村は絶壁の腹にしがみつく、いくつもの洞窟の集落だ。 湾のむこうの山かげからソイレカ鳥が一番光をつげるころ、村のまえにあるわずかな傾斜地にはまだ蒼いうす闇と、白いもやとが残る。 太陽神の住まう熱い北の海からの潮流をさえ切って、のびだす指の岬。 その東壁にはりつくようにして剣聖・ザグは彼の弟子たちのための修業の場を建てた。ザグの村は戦士の国である。 明るさをいまだ迎えない、かの地の前庭をたけ高い人影が歩いてゆく。 すらりとした女だ。 均整のとれた体格だ。 黒い瞳に、たばねた長い黒髪の、けれどここいらの土生の民ではない、陽に灼けてはいるが淡色の肌をした人間だ。 鍛えぬかれた筋肉と同様、しっかりしたアゴの線の、いい表情をしている。 めあての洞窟の窓に明かりのともったままなのを見て顔をしかめた。 足早に近付いて行く。 「ウード。はいるぞ。」 声をかけると同時にたれ幕に手をかける。と、あわてたように振りむいた青年の右目には、みごとな青アザがあった。
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