ホンとにほしかったもののお話。

2/16
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
 本が高値で売れると知ったのはいつの頃だったか。  幼い頃に両親を亡くした俺は、引き取ってくれる親戚もいないことから孤児院に預けられることとなった。が、そこは俺にとって看守の気まぐれな暴力に怯えながら過ごす地獄でしかなく、酷いときは何日も飯抜きで働かされ、やっと貰えたと思えばパン一枚だなんてこともあった。  それに耐えられなくなった俺は、ある日孤児院を飛び出し、以来盗みを働かせて暮らすようになった。  盗みがいけないことだとはわかっていた。けど、死と良心、どちらを取るかと言われれば、答えは明白だった。  最初の頃は様々な物を盗んでいたが、最近はもっぱら本ばかりを盗んでいた。けど、片っ端に本を盗めばいいってわけじゃない。高値で売れる本は、一般人が簡単に手に入れることが不可能な研究資料だったり、出版数が少なかったが為にもうどこの本屋にもないような貴重で珍しい物ばかりだった。だから、盗む先はいつだって街で一番でかい図書館だった。あそこは簡単に人が触れられる範囲で掘り出し物が沢山置いてあった。その分警備が厳しかったが、一度掻い潜る方法を覚えてしまえば此方のもんだった。  俺は色々な街を転々として暮らした。一つの図書館でずっと盗み続けるには限界があり、目ぼしいい物を盗み終えると近隣の街へと移り、そこで本を売ってはまた盗みに入るということを繰り返して過ごすようにしていた。おかげで、俺に家と呼べる場所は未だなく、宿に寝泊まりをする日々だった。  その日もまた、俺はいつものように荷物をまとめて街を出て行こうとしていた。  俺は宿でその街最後の朝食を取り終えてから受付でチェックアウトを行った。まだ昼前だからか、人通りの少ない大通りを歩いて行く。すると、そこで一軒の古本屋を見つけた。それは、洒落ているカフェ店と可愛らしい雑貨屋の間に、申し訳なさそうに小ぢんまりと存在しており、周りの二つとは違い寂れた印象を受けるものだった。  俺は暫しの間その店の前で足を止めた後、ふらりと立ち寄ることにした。図書館程ではないが、古本屋というのもまた、高値で売れる本達の倉庫だったりするからである。  足を踏み入れた店内は薄暗く、外観で受けた印象を裏切らない辛気臭さがあった。ただ、掃除だけは丁寧に行われているようで、店内には塵一つおちておらず、本棚の本達もピッシリと綺麗に並べられていた。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!