我は何処に在り

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我は何処に在り

「本当に宜しいのですか?」  おずおずとそう尋ねてきた医者の顔つきを、その鼻の上に乗っかった眼鏡を、その眼鏡のレンズの片隅についた微かな指紋の跡も、私は何もかも覚えている。何もかもだ。私はその日、上機嫌にYesと返した。全身の機械化――老いぼれて、地位も名誉も十分に得た私が最後に追い求めることを決めたのは、その大いなる計画の遂行だった。  死が怖かったわけではない。永遠の命が欲しかったわけでも無い。私はただ、科学の代行者として、生命の永遠の議題に挑もうとしただけだ。『自我は何処に宿るのか』――それが私の、そして人類の定めた究極の謎の一つであることに疑いは無く、それに挑める自分自身を私は誇りに思ったものだ。
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