我は何処に在り

3/11
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
 次に胴体の機械化が遂行された。これは大変な事業だった。何せ内臓も含めたすべての器官を機械化し、生命を維持するのだ。死の危険は医者から何度も指摘されたが、私は躊躇わなかった。所詮は老いぼれの身だ。死ぬ時は死ぬ。その時は皆で私を笑えばいい。愚かな妄執に取り憑かれた孤独な老人! その老人から大量の札束で頬を叩かれ、持てる限りの叡智を投入する、人類の知恵者たち。その滑稽な所業は絶えることなく続けられた。そして私は毎日、記入するのだ。「我はここに在り」。内臓が全て有機機械に置き換わっても、腹部が鋼鉄に覆われても、私はまだ私だった。心臓が取り換えられた時も、私は私だった。自我は消えない。私は私で在り続けた。この時点で、古代エジプトの人々が提唱した『魂は心臓に宿る』という説は否定できる。何せ私が生きた証人なのだ。私の心臓は鋼鉄の部品の組み合わせであり、全身に血を、もしくはエネルギーを送り出すポンプに過ぎない。だが私はこうして存在している。我はここに在り! 私は古代の人々に勝ち誇った笑みを浮かべていた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!