本屋のせがれ

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本屋のせがれ

 本好きな読書家のことを、よく『本の虫』っていうよな。  じっくりと文字を追いかけて、紙に穴があきそうなくらい本から目を離さない人が同じクラスにいる。  名前は高野瀬(たかのせ)乃高(のだか)。逆さから読んでも同じにならないが、漢字だけ見るとギリアウト。  マンガなら貸してもらおうかと思ったんだけど、縦に並んだ文字が見えて「あ、これ俺は無理だわ」と、思ったわけだ。  そんな俺は鈴城(すずしろ)助六(すけろく)。1人につき6回は人助けをしろと親から無茶なことを言われている。  だが、仲良くなれば意外と簡単に回数をこなせる。ただ、知り合いじゃないと、俺には無理だと思うんだ。ありがた迷惑とか、ただのお節介とか、そんなことを言われた日にはさすがに傷つくだろ。  とにかく、高野瀬に向かって「何が面白いんだ?」と聞くんだけど、相変わらずの顰めっ面で「邪魔をするな」と言ってくる。  俺は「はいはい、いつも通りの回答乙~」と言ってから、高野瀬の肩を軽く叩いて校庭へと駆け出す。  天気のいい日は、青空の下走り回る遊びに時間を使う方が活字を追いかけるよりも、よっぽど楽しい。
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