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「楽しいよ」
「……英次」
「お前が楽しそうにしているのを見るのは楽しい」
長い指が俺の前髪を摘んでる。ただそれだけのことでも、なんかドキドキする。最近の英次は丸ごと、目の毒だ。シャツをルーズに着ているだけで、心臓が騒がしい。
「一緒にやろうぜ。花火」
「寄り道って何かと思ったら、まさか、花火とはな」
「や、だった?」
「いや、凪がまだ小さかった頃にもやったっけって思い出してた」
俺はあんまり覚えてない。でも、花火に火が灯った瞬間、いきおいよく飛び散る火花を怖いと思ったのは覚えてる。ドキドキして、着火したって思った瞬間に俺自身飛び上がって、余計に危ないぞって英次に言われた。俺の背後にしゃがんだ英次がいて、英次自身を椅子代わりに思いっきり寄りかかってた。覚えてるのはその胸の広さ。
「でかくなったなぁ」
「なにそれ、いっつもチビって言うクセに」
前だったら、今の英次の台詞に少しへこんでたかも。でかくなったなぁって、思いっきり親戚の言いそうな台詞を英次に言われるのはイヤだった。完全な甥っ子扱いで、それ以上でもそれ以下でもないって言われてる気がして、切なかった。
「あぁ」
すごく穏かに笑ってる。
「英次?」
そんなに見つめられると、顔、赤くなっちゃうって。今、夜の公園で見えにくいかもしれないけどさ。真っ直ぐ、見ないでよ。
「前は務めて叔父らしいことを言ってた」
「……」
「そうやって、叔父になるよう努めてた」
ぎゅっと言葉で自分を引っ張って、押さえ込んでた。自分の中にある感情をけん制することに一生懸命だった。
「でも、今は、同じことを言っても、苦しくならないんだな」
「英次……」
「んな顔するなよ。ここで襲いたくなるだろうが。ほら、花火、どれやるんだ? まだ、線香花火って感じじゃないだろ。打ち上げにすりゃよかったかもな」
英次がスクッと立ち上がり、手に取った一本。俺、それ一番好きなんだ。パチパチって火花が本当に花みたいに弾けて綺麗でさ。
英次」
「んー?」
叔父してた頃の英次も、今の英次も変わらず優しい声。でも、今のほうが甘い。優しくて甘くて、低い声に心臓は飛び跳ねて、パチパチってこの花火みたいに光を点滅させて喜ぶ。
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