ある春の日に、編 7 サムシングブルー

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「いやぁ、なんか、すっげぇよかった!」 「あはは、押田、泣いてんの? サラ! ありがとな!」  ずびずび鼻を鳴らす押田に恋人のサラがハンカチを渡した。そして、肩を竦める欧米スタイルのジェスチャーの後、押田と手を繋いで、またもっと号泣させては笑ってる。 「押田も、色々ありがと」  今日、この日のためにすっごい色々やってくれたんだ。むしろこういう展示っぽいことの演出に関してはこっちがプロだからっつって、ほとんどやってくれた。プロって言ったくせに無償でさ。 「いいんだよお! 別にいいい! おめでとなー!」 「あんがと」  すげぇ親友だって思ってる。 「おめでとう」 「瀬古さん! あ、えっと、本日は本当にありがとうございます。海外から」 「何? 改まって、やだなぁ」  英次が立ち上がりお辞儀をして、俺は追いかけるように慌てて隣で頭を下げた。今、映画の企画ですごく忙しいはず。だから、結婚式は来れないだろうって思ってた。けど、言いたいじゃん。いっぱい俺らのために、英次のために、俺の将来のためにって動いてくれた恩人だから、結婚式を挙げようと思ってるって電話をしたらさ。 「とっても素敵なお式で」  来てくれたんだ。でええっかい真っ赤なバラの花束を持ってきてくれた。あとでベッドに散りばめるといいって、またおかしなことを言ってる。仕事ができて、すげぇ人なのに大人のおもちゃをプレゼントしようかどうしようかって、本気で悩む変な人だ。 「えー、ここで、藤志乃英次さん、凪さん宛にと預かった電報を読ませていただきます」  司会はうちの会社の後輩がやってくれた。そうそう、俺、後輩できたんだよ。父さん。二つ下の男子なんだけどさ。恰幅良くて、心がひろーくて、おおらかで、俺がうるさいくらいに飛び回って、フットワークが軽い感じだから、大型犬と小型犬って設定になってるらしい。仲いいよ。楽しく仕事してる。  英次がさ、仲良すぎて心配するかなって思ったんだけど。 「ぞ、ぞれでば、よばぜでいだだぎまず」  すでに号泣で何言ってるのかわかんねぇし。けど、そんくらい優しい奴だから、そういう邪なことは絶対にしないだろうって、英次が認めてた。  誰にでも優しくて、一人メルヘン物語って呼んでたりするくらい。そのうち肩に小鳥を留まらせて出社してきそうなくらい、本当に良い奴なんだ。  それと、最近ね、また仲のいい友だちができたよ。
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