1 人生最悪の日

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 長い髪はどっからどう見てもサラリーマンじゃない。ホストでもない。ホストよりも品があって、サラリーマンよりも不真面目そう。顔はめちゃくちゃカッコいい。英次の、もう今は英次のじゃないけれど、アステリはモデル事務所だから、もちろんモデルをたんまり抱えてるんだけれど、そこに混ざっても違和感がないほどの長身美形。それだけでも充分なのに、そこに三十一歳っていう、大人の色気も加わったら、もう無敵だ。もしかしたら、どのモデルよりも一番カッコいいかもしれない。仕事はもちろんできるし、このルックスで、上品に笑われたら、誰だって蕩ける。でも――。 「人が苦労してでかくした会社を持っていきやがって、くそったれ!」  でも、唯一の家族である俺の前でだけ、口がすこぶる悪い。態度も悪い。よくこれでひとつの会社の顔になれると思うくらい。 「なぁ、英次」 「あぁ?」 「英次んち、この事務所の上じゃん。どうすんの?」 「十九のお前に生活の心配されるとはな」 「茶化すなよ!」  そうだ。十九だよ。英次にしてみたら子どもなんだろうな。でも、そんな子どもに見える俺にだって好きな人くらいいる。ずっと、ずっとその人のことが好きだ。相手は俺よりひと回りも歳が離れてる。そんでもって、男。しかもノンケ。 「そんなもん……引き払うに決まってんだろ。今日からホテル暮らしだ」  望み薄かもしれない。その人は、どんなモデルよりもカッコよくて。 「あのくそったれ」  口が悪くて。 「そしたらさ、英次」  態度も悪い。 「あ?」  この人。俺の叔父、のことが好きなんだから。 「住む場所ないんなら、うち、来たら?」  この恋が実ることは奇跡的なこと、だと誰もが思う。でも、俺はそうは思ってない。ずっと変わらずこの片想いを続けてきた。いつか、叶うかもしれないと信じて。だって、俺の人生最悪の日はもう終わった。そして、まだ人生最良の日は来てない。なら、淡かろうが薄かろうが俺は期待する。 「うち、来たらいいじゃん」  いつか、英次が俺を好きになるかもしれないって。だって、人生は何が起こるかわからないのだから。
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