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「あ、ここがバスルームとトイレ。一緒だから。狭いとか言うなよな」
宿無し職なし、でも、顔はすこぶるいい。きっと、英次の今の状況を知ったら、どこかの女優やらモデルやら、歌手やら、綺麗な人たちが喜んで手招くだろう。だから、慌てて、講義なんてすっ飛ばして、もう英次のものじゃない会社へ急いだんだ。誰かに持っていかれる前に。
「あ、そうだ。英次、布団ど、う……」
「お前、ピアス、あけたのか?」
「っ」
振り返ったら、英次がすぐ背後にいた。それだけでも充分心臓には悪いのに、耳、触られた。耳朶のとこを指で摘まれて、一気に身体が熱くなる。英次の、長くて関節のところが骨っぽくてゴツゴツしてる、大人の指に、耳朶、摘まれてる。
「髪も金髪なんかにしやがって」
「っ」
髪、触られっ。
「ちょ! やめっ! 英次っ!」
ドキドキしたのに。その髪を掌でぐしゃぐしゃにされた。
「ったく、生意気に育ちやがって。そんな前髪長いんじゃ、目悪くするぞ。金髪も」
叔父と甥、家族っていうほど家族でもない。でも、たしかに血の繋がった家族だ。英次の中の俺はきっと小さい頃からずっと同じ。金髪にしても、ピアスつけても、不似合いな子どものまま。もう十九だっつうの。
そう……十九だよ。
物心ついた頃からずっと英次のことが好きだから、もう何年この片想いを続けてるんだろう。なぁ、いつになったら、俺のこと、ガキ扱いしなくなんの? 会う度にずっと繰り返し言われる「背伸びたか?」の挨拶は、いつになったら、何をしたら、しなくなんの? 十九にもなって、身長そこまでグングン伸びたりしないっつうの。それなのにいつも英次はそう言う。小学生の頃からずっと、会えば、背のことを言って、頭を撫でるんだ。叔父さんらしい言葉で、叔父さんらしい掌で俺の頭を撫でる。
「でも、このカリアゲ、気持ち良いな。小学生の頃を思い出して懐かしい」
「も! 英次のバカ!」
「はぁ、このジョリジョリ感、癒されるわぁ」
「ちょ、触んな!」
髪長めのツーブロック、けっこう中まで大胆に刈り上げて、金髪でピアスしてんだ。もう小学生じゃねぇよ。もう、大人だ。
「ありがとな、凪」
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