2 俺は貴方の、甥

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 髪を、頭をタオル越しにガシッと手で固定されたかと思ったら、わっしゃわっしゃに拭かれて、その力強さに思わずよろけてしまう。あっちこっちと忙しなく動く英次の腕に俺もヨロヨロ動かされる。 「いいよ! 作るって! こう見えても、俺、ちゃんと自炊して」 「お前、つまみ作れんのか?」 「え?」  強引に力任せに拭かれながら翻弄されてたら、パッと視界が開けて、心臓が止まるかと思った。拭くの、終わった? って、顔を上げたら、そこに英次がいて、背中を丸めて俺のことを覗き込んだりしてるから。心臓が飛び跳ねて、止まった。 「酒飲めないだろうが」 「……えっと」 「酒、まだはえぇぞ」 「……うん」  ホントは飲めるよ。遅生まれだから正確に言えば飲めなくても、もう大学の連中とかとは飲んでる。だからつまみだって適当でさえいいなら作れる。俺、英次が思ってるほど子どもじゃない。もう、何年ひとり暮らししてると思ってんの? 「それにしても、お前、髪細いなぁ。兄貴にそっくりだ髪質が、すぐ乾く」 「……」 「顔は比奈(ひな)さん似かもな。兄貴に似てたら……」  似てたら? 「お前も何か食うか?」 「え?」 「冷蔵庫さっき見させてもらった。けっこうちゃんとしてんだな。びっくりした」  だから、さっきから何度も言ってんじゃん。自炊だってちゃんとしてるんだって。 「勝手に食材使っていいんなら、それと今買ってきたもんで適当に作るけど」 「あ、うん」  俺ね、英次の色んなところが全部好きなんだ。顔も、子ども扱いされるのはイヤだけど、大きな掌も、節がごつごつした指も、少しだけクセのある髪も、すごく好き。口が悪くて、デリカシーなくて、目付きも悪い。そんな英次が笑うとたまらない。大好きなんだ。その笑顔が。 「ちょっと待ってろ」  たまらなく大好きなんだ。なぁ、今、それを言ったらさ、やっぱ、女優さんとこに逃げちゃうのか? 「うん……待ってる」
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