第1章

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あるとき、珍しく綺麗なままに息絶えている子犬がいた。からだの丸みそのままに横たわる姿はまだ可愛らしく、そのチョコレイト色の毛は、ふわふわして見えた。愛らしいだけにまだ死体という物体に見えず、より憐れさをさそう。 埋めてあげようか…。 琴子は迷った。 数日もすれば、この子も他の死体と同じように、腐敗していく。そうしたらもう、琴子にはお手上げだ。可愛い子犬のそんな様は、できれば見たくはない。 しかし手を伸ばしかけた琴子の脳裏に、先日小学校の窓に激突して死んでしまった雀のぐんにゃりとした柔らかさがよぎる。 琴音はまだ死体に触れたことがなかった。 騒ぐ同級生たちを横目に、死体の後始末をかって出た琴音だったが、すぐに後悔することになる。 首の骨が折れた雀は未だ温もりを残しているもののその肢体に力はなく、琴子は触ってはいけないものを触っているような、畏れと気色悪さがない交ぜになった気持ちになった。 子犬は、雀よりはるかに大きく、重そうだ。
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