第1章

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初夏の日差しが琴子のおかっぱ頭を焼く。汗を滴らせながら犬の肢体を前に琴子が立ち尽くしていると、唐突に 「駄目だよ」 と声が聞こえた。 気付くと、琴子を日差しから守るように一人の少年が隣に立っていた。 「危ないから、さわらない方がいいよ」 「だって、このままじゃ可哀想」 近所のお兄さんだろうか?と思いながら、琴子は答える。 「うん、可哀想だ。まだこんなに小さいのに、痛くて苦しかっただろうね。今も暗いところに一人きりで淋しいと思うよ。だからこそ、駄目なんだ」 「どうして?」 お兄さんは、小さな子を諭すような声音で、しかし重大な秘密を打ち明けるように人差し指を唇に当てて言った。 「こういう弱い子は、寂しくて苦しいから、誰かに助けてもらいたがってるんだ。だから優しくすると、道ずれにされるよ」
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