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第9話 めまぐるしい毎日
それから来夏は、副社長に購入してもらったスーツを上手に着回し、副社長の好みのネイルを施し、ヒールを履き、スケジュール調整をしながらあちらこちらに飛び回る日常になった。
9時17時のOL生活なんてもんじゃない。
もちろんきちんと会社は残業手当も出張費も支払ってくれたが、プライベートの時間がなくなった。
彼氏がいなくてよかった。
と自分をなぐさめるわけでなく本心で思った。
仕事は楽しかった。
今まで自分の人生で会ったこともないような業界の著名人やCEOなどにビジネスの場で会う機会が増えた。
副社長は雑用ばかり押し付けるわけでなく、新入社員の来夏にきちんと仕事ができるように指導してくれた。もちろん厳しさはハンパなかったけれども。
こんな時に大学時代にとった秘書検が役立つなんて思わなかった。
もちろん、こんなんなら一級をとっておけばよかったと悔やまれた。
英語のディスカッション、会議も多かった。
とりあえず、中身が理解できる程度になるよう、英語の教材も山ほど渡された。
議事録は、指向性のマイクで音声マイニングをするソリューションを米国から導入したが、それでも100%誤字がないわけではなかったので訂正する仕事をしようとすると
隣から副社長が涼しい顔をして持っていってすぐに終わらせてしまう。
副社長と一緒に仕事をしていて思った。
仕事が早い。無駄がない。
この男、見てくれだけでなく仕事もでき、また、記憶力も判断力も決断力もある。
まさに企業のトップになる素質を携えている。
そんな副社長と同行機会が多くなり、仕事にも慣れていくにつれ少しずつ自分の心の中で感情に変化が起きてきていることに否が応でも気が付いてきた。そんなとき
自分の気持ちを気付かされる小さな事件が起きた。
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