第1話 昨日と同じスーツ

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第1話 昨日と同じスーツ

「おはよーーー」 後ろからいきなり抱きつかれて、松本来夏(まつもとらいか)はビクッとする。 「どうしたの来夏?なんか目が充血してるけど? それにーーーー 昨日と同じスーツ!」 「菜水!声が大きい!」 とはいっても広々としたオープンスペースの打ち合わせカフェスペースでは、誰も2人の会話に着目する人などいない。 「さては、夕べもまた?今度は誰にお持ち帰りされたの?総務の木村?企画部の斎藤さんとか?うーん。ってか来夏いつ昨日帰ったの?私気がつかなかった」 ギクリと冷や汗が背中を伝う。 「菜水の婚約祝賀会なんだから私のことなんて気にできなかったと思うよ。だって、菜水は、昨日の主役じゃない?」 なぜか早口になってしまう。 「副社長だっけ?私あの人初めて見たような気がしするんだけど。菜水の婚約者だったんだね。」 チクリとなぜか心が少しだけ痛む。 それは菜水に対する背徳感からかそれとも。 「あー。潤哉のことね?速水グループの御曹司?帝王学とか学ぶのが目的で、留学しつつ、先月まで英国の由緒あるホテルチェーンで働いていたみたいだからね。といってももちろん支配人の立場でね。」 ふーんそうなんだ。とひとりごちながらふと疑問に思ったことを口に出した。 「でも、菜水に婚約者がいたなんて知らなかったよ。」 やっぱり、菜水と私の関係は、親友?友達?なんて関係じゃないんだなと思い、寂しさを感じた。 「あれも先週決まったこと。元々うちの宮坂財閥の商社部門が速水グループと手を組みたかったんだよね。特に輸入家具の分野で。速水グループのホテルチェーンは、国内で第3位だからね。うちと手を組めばお互い、Win Winの関係だから。親同士が勝手に決めた事。」 菜水もこれまた、日本で知らない人はいない宮坂コンツェルトの一人娘。 「でも、結婚するんでしょう?」 「約束は三年後。2人が25歳になったらだって。」 他人事のように菜水は言う。 「それまでは、2人とも最後の自由を謳歌しようねって潤哉とも昨日決めたから」 だからって いきなり婚約決まった日に会社の女の子と寝ますか? と自分のことは棚に上げて副社長を恨んでしまう。
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