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ギルド市場へは立ち寄らずまっすぐ戻るつもりだった。隣を歩くトーマへ、舞踏会に出席するのに制服で構わないのかと訊いてみた。
「そうですね。そのお召し物は正装だとお聞きしました。マントはございますか?」
マントは正装する際の必須アイテム。狩りを初めて行った際、師匠がお祝いだとプレゼントしてくれた時、とても驚いた。一人前になった証として、マントを贈る習慣だと言われた頃が懐かしい。
「はい。師匠がド派手な装飾をしてくれたので、恥ずかしいんですよ」
「ほほぉ。拝見するのは後のお楽しみにしますね」
「はい」
そこへ、弾丸のように迫り来る気配を避けた影は、真後ろの外壁へ弾みをつけて、見事地面に着地した。
「クソッ」「追いかけろ」「あっちにいったぞ」と、舌打ちしたりしながら、福子たちの方へ向かってくる。
4、5人のギルドだろうか。……いや7人。いかつい男集団で討伐しなければならない上級魔獣かもしれない。
灰色の狼や犬を彷彿させ、一見かわいらしい姿をしている。だが、意志のある力強い眼差しは、聖なるプラチナの輝きを放ち、体躯の毛並みも灰色をしていても毛先が銀色に神々しく光っていた。
決して魔獣でない。
胸にしがみついて震えている黒い子犬がいる。きっと子犬を庇ったに違いない。人が大勢いるので魔力を抑えているのだろう。
「お嬢ちゃん、どいてくれるかな?」
退いたら攻撃するんでしょ?
ゆっくりとした口調で威圧してくる輩を否して、無言で手裏剣を装備した途端、男たちの目付きが鋭くなった。
「怪我したくなければ、そこをどけっ!」
怒鳴られたくらいで、怯む福子ではない。 怒鳴った相手を強く睨み返した。
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