前編

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舐めるように福子を品定めする男特有の卑猥な視線を肩で流した。 とびっきりの美女だったら、“人買い”に売りつけるけど、平凡な容姿のわたしは商品価値がないわよね?残念でした! 「このコをどうするの?」 クスクス嘲笑いながら、ふざけた調子でからかうのは、多勢に無勢で押し切るつもりね。 「このコを殺しますよ」 一斉に爆笑しながら、福子に的を捉えた。 「こいつの魔石は極上でな?」 「俺たちのアイテムを進化できるんだ」 「殺られたくなければ」 「即刻立ち去れ」 【飛苦無】 同時に8ヶ所を狙い撃ちした。7人の首筋に鋭利な小刀タイプの手裏剣が宙を停止した状態で押し当てられている。 最後のひとつを手に、リーダーらしき人物の額に狙いを定めたまま呟いた。 「諦めなさい」 悔しげに顔を歪めて睨まれても福子は怯まない。人を殺める主義ではない。 往生際が悪い連中を拘束しようと、緑魔法を発動させようとした福子を制して、正装のトーマが凄んだ。 「この勝負は彼女の勝利。退かなければ宮殿とギルド泡沫の夢、両方から制裁されるぞ。どうする?」 余裕綽々な笑みで一瞥したトーマに敵うはずはない。脂汗が滲むリーダーがひとこと「参った」と呟いた。 手裏剣を戻しても警戒心は解かないで凝視すると、一目散に逃げていったが、敢えて追いかけなかった。 「ありがとうトーマ」 「緑魔法は目立ちます」 「気を付けます」 まばたきの間に辺り一面が結界で覆われた。目の前に佇む高貴な聖獣が自ら発動させたのだろう。 子犬が足許で戯れていた。尻尾がふさふさでかわいいー!小さな舌をチロチロさせて、福子の足を舐めてる。 「福子。我が名はアルギュロス。無礼な奴等から助けていただいた礼を言う」 「お役に立てて光栄です」 「懐かしい。福子から最古の森の残響が聞こえた」 「ぜひお越しください。師匠が守護する森は健在です」 「いや。福子と行動したい。我を召喚獣にしないか?」 召喚獣自ら勧誘するとは思わなかった。
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