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サンダーやトーマが挨拶回りをしているので、今のうちに腹ごしらえをしよう。
見渡せばバイキング形式のビュッフェのようだ。他の方に倣って、幾つか皿に盛り、初めての料理を味わっていた。
華やかな場所での立食なのでホテルっぽい。久しぶりに外食した気分だった。
「ねぇ、あなたの髪は艶やかね。どこの香油を使っているの?」
癖毛をポニーテールにした茶髪の少女が話しかけてきた。マントは光沢のある茶色を着た、サファイアブルーの瞳が聡明な輝きを魅せている。
「香油は自家製です」
「へえぇ。触ってもいい?」
返事をする前に彼女は指先で絡めていた。
「んん~香りも手触りも上質ね。わたしはロズワード家の長女チアキよ。ぜひウチで扱わせて欲しいわ」
ロズワード家とは5大貴族のひとつで、王宮御用達の品を扱う凄腕商人だと聞いていたので、話しかけてくれたことに驚いていた。
「ありがとうございます。わたしは最古の森で暮らしている調合師の福子です」
と、初めて調合師として挨拶出来て嬉しくなった。
ええっ!?と、チアキは甲高い驚きの声を上げた。
「福子はスゴい人なのね!やっぱりわたしの目に狂いはないわ。フフフ…商談はいつにする?リヤン登録をしてくれる?」
「はい。喜んで」
今後サンプルを持参して、ギルドに営業しようと思っていたので、有難い申し出だ。
「商談は“ギルド砂漠の海”でもかまわない?」
「はい」
「助かるわ。福子はギルド“泡沫の夢”なのね。よろしくね」
そこへ、インカムを着けたライブ中のアイドルみたいな少年がチアキの元に来た。
「チアキ様。今宵もお綺麗です」
「ありがとうポール。こちらは福子よ」
隣にいた福子をチラ見した少年が感嘆の声を上げた。
「福子様初めまして。ギルド砂漠の海のポールと申します。黒犬をゴルゴン一味から救出していた方ですよね?素晴らしい手裏剣技でした」
赤色の瞳がキラキラ輝いている。どうやら今日は、わんこに縁があるらしい。
「まぁ!話題のヒトじゃない福子!あのゴルゴンたちをギャフンと言わせたんでしょう?フフフ…」
「そんなに目立っていましたか?」
おずおず訊ねた福子の様子に、爆笑するふたり。
「あはははは!付き添いがトーマ様ってだけで充分目立つってば。よかったら僕ともリヤン登録してくれる?」
「はい」
「福子とはリヤンだから、敬語禁止な?」
「うん。よろしくねポール」
友達。ギルドカードに増えていくことに感謝しながら、この世界で生きていくんだと実感が沸いていた。
昨日までずっと、最古の森で師匠とふたり生活していたので、ガラッと一変した環境に、気持ちが追いついてきた感じがしたのだ。
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