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制服の9人は退出していき、張り詰めた空気のまま、進行されていった。
「では第一王子からの御言葉を賜ります」
杖が地面を突くと、清浄な“気”に包まれた。
「本日の舞踏会は異世界人の紹介を兼ねていた。皆も承知だが、インフィニティは魔王も勇者も存在しない。無限に平和が続く世界だと何度も説明しておる。
異世界人が訪れるのは吉兆であり、意志を尊重しているが、文献の内容とは身なりも行動も違うのだ。あの9名は仕事もせず、娯楽に明け暮れており、ガクセイを連呼するのだ。ガクセイとは何かと云えば、勉学する幼子のことらしい。
我らは困り果てておる。
一向に埒が明かないので、明朝各ギルドへ引き渡し、個人的に一から指導指南して貰いたいのだ。
今から名を呼ぶ者は前へ」
舞踏会には各ギルドの使者が参加している。数人が露骨に顔を歪めたり蒼白な表情になるのは、やはり引き受けるのが面倒だからだと思う。
第一王子自ら前置きがあったので、王族を慕う皆は断れない。まして直接任命することはない名誉あることだという。
リヤン登録したポールも呼ばれた瞬間、声なき悲鳴を上げていた。最後に呼ばれたギルド“蜻蛉の歌”の使者だけは、声に出して笑っていた。度胸があるのか肝が座っているのか。ギルド名を頭に刻みつけた。
引き継ぎが完了した後、第一王子の驚きの言葉で内心飛び上がった。
「そして10番目の異世界人は皆の中に溶け込み、自立しておる。ギルド泡沫の夢に所属する福子よ、前へ」
指名され動けないわたしを、アルスが尻尾で背中を押してくれた。
チアキが耳許で囁いた。
「ほら福子。さぁ第一王子の御許へ」
「ありがとうチアキ」
気を取り直して前へと歩みを進めた。
観衆が左右に避けて道を開いてくれる。
「立派なマントですこと」「サンダー様と踊ってらしたわよ」「キレイな黒髪ですこと」「召喚獣もいるわ」
ひそひそ囁かれる言葉が筒抜けだった。
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