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晩餐会前に初めて習った儀式を、ぶっつけ本番で行うことになるとは思わなかった。
両手を前に合わせ、左足を地に付け右足を立てた。そのまま深いお辞儀は90度。10秒数えて、右足を軸に素早く立ち上がり、もう一度深い一礼をした。
一挙手一投足試験の採点をされている気分だ。何せ王族への無礼は重罪。大舞台に挑む気持ちで臨んだ。
第一声が大事だ。震えないよう聞きやすい声色を意識した。こんな緊張感は久しぶりだ。
「お初に御目にかかります。野原福子と申します」
第一王子は満足気な声色で、福子に話しかけた。
「面を上げよ。我はオーブ第一王子ジェミャだ。君は調合師の学び途中だと聞いておる。これからも精進せよ」
「御意」
余計な言葉を控えたほうがいいと、トーマから助言されたので、短い肯定の返事をした時、初めて目を合わせた。
第一王子ジェミャが時期王だと思わせる意志の強さを秘めたエメラルドグリーンの瞳が、楽しげにキラリと光った。
「ぜひアップルパイを所望する」
えーと、アップルパイは調合師の枠ではないと思いますが。
「承知いたしました」
サンダーが必死に笑いを堪えていたのがわかり、一礼したまま、暫く動けなかった。
王族が退室すると、晩餐会は終了となった。
「福子様。初めまして。私はキャンベル家の当主でキース・キャンベルと申します。どうぞお見知りおきを」
チアキが見せた一礼を真似してみた。
「キャンベル様。御近づきになれて光栄です。福子とお呼びください」
挨拶したら、どうしたらいいのかな?そこへ、
「キース!わたくしの目の前で勧誘するとは、いい度胸ね」
と、頼もしいチアキが優雅に扇を開きつつ、福子の肩を抱いた。
「これはこれはチアキ嬢。オレオルの輝きも色褪せる容姿に目が眩みます」
「世辞は不要よ。福子に手を出したら許さないわよ」
火花が散る最中、色気全開のサンダーがやって来た。うわぁ!注目の的になってるーー!
「さぁ福子。部屋まで送ろう」
耳を赤くしたチアキと、ジト目で見つめるキースが対称的だった。
「ちぇっ。サンダー様のコレかよ」
ち、が、い、ま、す。
エスコートする王子に誰も逆らえない。チアキに手を振り、会場を後にした。
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