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師匠に頼まれていた薬草を手渡した。
「おお~、ちゃんと根元ごと採集出来たんだな」
優しく頭を撫でられると照れくさい。まるで幼子に向ける父親の眼差しに思えるから。
「今、夕食を作りますね」
「いや。先に風呂へ行って来いよ。夕食はその後でいい。地下室にいるから呼んでくれ」
「わかりました」
風呂は天然の温泉が湧いていて、毎日の贅沢だと思っている。台所の勝手口のドアを開けると、風呂の脱衣場に繋がっている。
早速服を脱いで畳むと、温泉の湯にゆっくりと浸かった。
「ふぅ。気持ちいい~~」
粉石鹸やシャンプーは、自分で薬草を採集して畑で栽培しているものを、森で採取した蜜や実を混ぜ合わせて調合した手作り。
身だしなみを整える化粧水や香油も同様で、しっとりする感じや、ほんのりと香る匂いも納得するまで何度も調合している自信作だ。
風呂から上がると、タオルとして普及されている大きくて水分吸収のいい葉、“オオヤシ”で体を拭いてフックに引っかけておく。何度か繰り返して使える優れもので、森の至るところで育成している。
台所に立ち、大鍋に井戸で汲んだ水と野菜を入れて火にかけた。火加減の調整は昔ながらの竹筒に空気を吹いて送る。こんな時、以前の生活がどんなに便利で簡単だったか思い知らされるが、不便さを楽しんでいる。
先程の肉を一部を香草で下味をつけてから、サッとあぶり焼きにする。色や形は異なるけれど、似たような野菜や果物は豊富にあるので、食材に困ったり調理できないってことは稀だった。
主食は小麦や米に似たものはなく、特定の樹に成る実を割ると、焼きたてのパンに酷似したもので“ポンの実”。
最近米が恋しいので森中を散策している。師匠はポンの実しか知らないので、説明してもピンとこないらしい。
ポンの実をテーブルに乗せたところで、師匠が「おっ!香草焼きだな、旨そう!」と、言いながら椅子に座った。
「いただきます」
「明日は客人を迎えに行くから、留守番を頼むぞ」
「はい。客人ですか?」
福子が最古の森に来てから初めてのことだ。留守番する時にいつも言われる言葉が繰り返された。
「ああ。いいか?決して畑から外へは出るなよ。何かあれば俺の名を呼べ」
「わかりました」
ヤバッ。聞き流していたらジト目で見られた。
「コラッ、ちゃんと聞いているのか?」
「わかっています師匠」
「ホントに?」
「はい!」
漸くジト目から解放されて、食事を再開したのだった。
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