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翌朝。サンダーが迎えに来た頃には師匠と紅茶を飲んでいた。
「師匠、いってきます」
目で頷いた師匠は、返事をする変わりに手を差しのべた。握手した師匠の手のぬくもりを忘れない。
ニヤニヤしながら師匠を見つめていたサンダーは、わたしを促して颯爽と歩き始めた。
「森を抜けたところに馬車を待たせてある」
「お気遣いありがとうございます」
「どういたしまして」
一度だけ師匠と歩いたことがある道のりだった。森の歩き方や過ごし方を丁寧に辛抱強く教えられたので、サンダーの歩くペースを遅く感じていたら、少しペースが上がった。
森が静かだ。まるで一時的に森を去る福子を見送るように…
降り注ぐ日差しやそよぐ風、葉音の揺れる様子まで、森の恩恵を全身に感じていた。
約2時間くらい歩いた頃、待ち合わせ場所に到着した。馬車の御者が驚いた表情で出迎えてくれた。
「お早いご到着ですねサンダー様。お昼を過ぎると予想しておりました」
「福子が山歩きに慣れていたんだ。トーマ、馬車の前で昼食にしよう」
青髪に鳶色の瞳は思慮深さが滲み出ている。
「かしこまりました。初めまして福子様。私はサンダー様にお仕えするトーマと申します」
「トーマ様。どうか福子とお呼びください」
「では福子。私のこともトーマとお呼びください」
「わかりました、トーマ。よろしくお願いいたします」
馬車で食べたのはサンドイッチ。ポンの実を細かく切り込みを入れて、魔獣の肉や野菜など具材を挟んであった。
森で採れるポンの実とは別の種類かと思うほど小ぶりで驚いた。森の作物はどれもが大きく味も濃厚で美味しいという。
柑橘類に似たジュースも、果実を絞り水で薄めたものだが、さっぱりと飲みやすく美味しかった。
「王都まで時間があるし、福子の話が聞きたい。 もし異世界から来た者が森に現れたら、すぐ王宮へ報告しなければならないのだか、竜樹は半年間黙秘していたんだ」
黙秘?
首を傾げた福子に微笑んでみせた。
「最古の森管理者が秘する時は後継者現れし時。福子が後継者候補だと噂されているんだ」
噂の渦中にいる事実に動揺しながら、古池に転落してインフィニティに来たこと、師匠に助けれるまでの記憶を失っていること、半年間は師匠と暮らしていたことを話した。
サンダーは相槌を打つ程度で、福子の話を遮ることはなかったが、顎を擦ったり両腕を組んだり、思案顔のまま聞き入っていた。
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